瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その12 アートプロジェクトと地域の関係/野田邦彦氏~

瀬戸芸祭は107万人の来島者で大いに瀬戸の島々が賑わいました。およそ8か月間の春~夏~秋の瀬戸内の風景に堪能した方々もいたのではないでしょうか。現代アートを鑑賞するよりも、過疎化が急激に振興する島々の実情と瀬戸の多島美に「非日常性」を感じ取ったのではと思いますが…。

さて、今回は野田邦弘(鳥取大)さんの文化経済学会2013での概要を素材にしてみます。次の第3回瀬戸芸祭を見通すうえでも参考になると考えます。

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◇2014年9月『住民と自治』&香川自治研「月報」をお届けします

◇『住民と自治』の主な記事

●特集●地域交通の課題 どうなる住民の足

  • 住民の足を守る地域交通のありかた―自治体の取り組みと課題  山田 稔
  • 交通権を保障した地域交通政策  可児紀夫
  • 住吉台くるくるバスを守る会の取り組みと住民の力  中野義裕
  • 地域交通の横断的一括管理を実施して  角田美幸
  • 市巡回バスの路線廃止をめぐって  穂積建三
  • 行政、事業者、金融機関の思いが一致~高知型公共交通  林 照男
  • 富山型コンパクトシティを問い直す  渡邊眞一
  • 政務活動費の使途問題の改善  加藤幸雄
  • いま、さいたま市の公民館で何が起きているか
    ―三橋公民館における俳句作品の掲載拒否問題―  片野親義
  • 日本創成会議提案は市町村を亡ぼす  保母武彦
  • 書評 全国小さくても輝く自治体フォーラムの会編『小さい自治地 輝く自治』  髙橋彦芳
  • 沖縄でのつながりを未来へ――「おきプロNEXT」で全国の青年が交流――

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◇「月報」の記事

  ●平成26年度香川県当初予算を議論する(下) 田村彰紀

  ●瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論(⑯)~高見島 田村彰紀

  ●いいかげん地域学(その8 幻の大河を追う 3) 佐藤孝治

平成26 年度香川県当初予算を議論する(上)

平成26年度香川県一般会計当初予算は、平成26年2月議会において原案可決(3月20日)された。同じく、特別会計予算と県立病院事業会計予算なども原案可決されている。ここでは一般会計当初予算について、知事の提案理由説明を踏まえながら予算の分析、予算内容の議論をしておきたい。

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◇2014年8月『住民と自治』&かがわ自治研「月報」をお届けします

◇『住民と自治』の主な記事

●特集●子ども・子育て支援新制度の問題点

  • 座談会 現場が抱く危機感と運動で拓く可能性浅井春夫/和泉明子/仲 葉子/高橋光幸
  • 子ども・子育て支援新制度の内容と課題藤井伸生
  • 横浜の保育の実態佐瀬鉄矢
  • 杉並区の「子供園」の現状岩瀬容子
  • 書評 小沢隆一・榊原秀訓編著『安倍改憲と自治体』
    人権保障・民主主義縮減への対抗白藤博行
  • 「第19回全国小さくても輝く自治体フォーラムin九重」に参加して小山大介
  • 大飯原発三、四号機運転差止訴訟福井地裁判決の意義渡辺敦雄
  • 最高裁、政倫条例に合憲判決 広島県府中市・二親等の請負禁止をめぐり斎藤文男
  • 自治体問題研究所第54回総会報告

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◇「月報」の記事

 ●平成26年度香川県当初予算を議論する(続・中) 田村彰紀

 ●瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論(⑯) 田村彰紀

 ●いいかげん地域学(その7・幻の大河を追う2) 佐藤孝治

瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その11 かがわ・山なみ芸術祭~

(2)かがわ・山なみ芸術祭2013 綾川

高松空港の西、綾川町田万ダム周辺が現代アート作品の会場です。平日なので他の鑑賞者は見えません。案内ブースも常駐ではないらしく、展示場所は旧枌所小学校と田万ダム周回道に点在していました。

旧枌所小学校は、「かがわ・ものづくり学校 Presentation Transcript」となっています。その概要をネットから検索してみたところ、2005 年3 月に廃校となり、その有効活用を募集したところ、NPO 法人かがわ・ものづくり学校が香川県を拠点に芸術文化活動の促進と地域の創造的活性化を目的に、文化事業を展開することになったようです。

主たるメンバーは、画家、陶芸家、彫刻家、写真家、建築家、コンピューターエンジニアなどです。戦後、日本は地方に工場を作り、大量にモノを生産して大都市に流通させて経済発展を成し遂げてきました。こうした事実、地方での「ものづくり」を芸術家が果たしていこうというものです。

その旧枌所小学校の校舎内に現代アートが展示されていました。先日の塩江でもそうであったように、たまたま現代アートの制作と「展示」する場所が確保されたので作品をそこに並べたものという印象でした。

ただ、校舎3 階にあった縄文文様を基調にした絵画(染色技術)などは一見の価値があると評価したいと思いました。その他の作品は、「ものづくり学校」で学んでいる芸術学生たちの披露の場のようにも見えました。現代アートの神髄とでもいっていいのですが、芸術創造への独創性や創造力には並々ならぬものに感動を覚えたことも確かなことです。思いもつかないイマジネーションの源泉がどこにあるか、とことん作者に聞いてみたいと思ったほどです。

山なみ芸術祭・綾川エリアのテーマは、「心の在りか」です。田万ダム周回道にそって作品が展開されていました。次々と作品が現れますが、驚きと共感する作品には出会いませんでした。

現代アートとは何かを十分に咀嚼しないと評価を与えることに躊躇しなければならないのですが、いわゆる共感・感動するという第一印象は重要なことです。ただ、圧巻だった作品は、迫ってくる山の法面を活用した大掛かりな龍ペイントでした。力強さとともに、山頂から流れくる流水と昇り龍は特に印象的で、山なみ芸術そのものという印象を受けました。

(3)若干の考察です。

第1 に、大衆的芸術祭というジャンルがあるとすれば、地域住民とのワークショップを軸とする創造活動の披露としては素晴らしいことです。そこには専門的指導的な芸術者の存在は欠かせないでしょう。

第2 は、専門的リーダーの指導が加わっているとしても、たとえ未完成、未熟な作品だとしても、展示披露を重ねることにより、より高度な芸術に接近する可能性を評価しなければなりません。芸術文化の発展のためには、ここが重要なところです。

第3 に、なお未完成・未熟な作品に止まるとしても、創作活動への人間的衝動を積極的に評価したいと思います。芸術活動は、〇〇賞などを求めるとか、商品として市場流通に期待するとかは、卓越したプロフェッショナルの世界の話しでしょう。

最後に、瀬戸芸祭は、まさにプロ集団の芸術文化の披露の場です。大衆的芸術祭ではありません。ぜひとも、瀬戸芸祭を鑑賞する機会を作りましょう。現代アートは「分からない」のですが、何らかのインスピレーションがあるはずです。作品創造はできませんが、なぜ現代アートの世界に90 万人が訪れるのかを探究することが、地域政策として肝要なことになりつつあります。

(つづく)

田村彰紀/月報352号(2013年11月号)

瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その10 かがわ・山なみ芸術祭~

前号では「日記風瀬戸芸祭」ではなく、芸術文化と経済の関わりを少しばかり議論してきました。日本の経済発展をテーマにしたとき、芸術文化が俎上に乗るのは経済発展の飛躍といえます。そうした時代がすでに来ているという証左でもあります。

さて、今回は瀬戸芸祭に連動して香川の山間部では「山なみ芸術祭」が開催されていました。その様子を「日記風」に記しておこうと思います。山間部でも地域振興をめざして、芸術文化による地域政策が試みられています。

(1)かがわ・山なみ芸術祭「しおのえ@新たなる源泉」

梅雨入り宣言のなか快晴に恵まれた平日に、塩江・山なみ芸術祭の会場に向かいました。午後の遅い時間であったので、鑑賞者と思われる人に2~3人ばかりでした。まずは、塩江の岩部神社を参拝していると、境内に現代アートを発見しました。しかし、どう見ても現地の風景とミスマッチしているのではとの違和感はぬぐえません。神社の境内が適当に広いだけに、場所的適切さからだけのアート展示ではないかと思いました。

塩江温泉郷の温泉通りに設置されている総合案内所に向かいました。瀬戸芸祭パスポートを持参して提示している鑑賞者2人訪れていました。案内人が「ここは瀬戸芸祭とはちがいますよ」「ここにはスタンプはありません」と応対していました。そのやり取りを聞いていて、瀬戸芸祭への対抗意識が表れていると感じました。山なみ芸術祭のイラストマップを見ると、<過疎集落等自立再生緊急対策事業(温泉通り活性化)>とありました。

総務省は平成24年度補正で、この事業に補助金をつけているようです。その趣旨は、①過疎集落等を対象に、地域資源や地場産業を積極的に活用して地域経済の活性化を図るとともに、日用品の買物支援といった日常生活機能の確保などの課題に総合的に取り組む、②拠点施設整備等のハード事業や住民主体による持続可能な仕組みづくり等のソフト事業を一体的に実施する、③地域経済を支える中小企業・地元小規模事業者への受注を促し、地域経済を活性化する、とあります。

山なみ芸術祭は、瀬戸内の島々が開催地の瀬戸芸祭に対抗して、国の補助事業の過疎集落活性化企画に乗っかっての「芸術祭」でした。瀬戸芸祭の中間期日で会期外の6月1日(土)から6月23日(日)と短期間のはざ間の設定でした。

メイン会場の温泉通りには、現代アート作品と県内の伝統工芸作品のミックス展示で芸術文化が混在しているようで、何とも統一感がありませんでした。伝統工芸では、讃岐のり染め、手描き鯉のぼり、保多織、張子虎、欄間彫刻、竹一刀彫、志度桐下駄、高松張子、水引細工、一関張などです。ただ興味深かったのは、現代アートの作者が香川県出身者がほとんどだったことです。

塩江美術館は閉館していました。外庭には現代アートが展示されていましたが、これも場所的ミスマッチの感がぬぐえませんでした(現代アートへの共感は主観に拠るところが大きい)。つまり、作品に普遍性が感じられず、ついには撤去されることを前提にしたものであろうと思います。

(つづく)

田村彰紀/月報352号(2013年11月号)

◇2014年7月『住民と自治』&かがわ自治研「月報」をお届けします

◇『住民と自治』の主な記事

●特集●観光サイコウ⤴

  • 持続可能な観光を考える西村幸夫
  • 持続可能な観光まちづくりへの処方箋―由布院米田誠司
  • 観光を軸とした持続的な地域振興と「域学連携」への期待藤田武弘
  • 活動を「資源」としたエコツアーで地域おこし傘木宏夫
  • 三条市のオープンファクトリー戦略―観光資源を担う存在としての工場―澁谷一真
  • 「環境」と「人」とともに生きるリゾート前原功治
  • 地域とともに農と文化にふれる教育旅行37周年大和田しずえ
  • ユニバーサルツーリズムとトラベルヘルパーのこれから篠塚恭一
  • 2014年地方自治法改正を読み解く白藤博行
  • エネルギー政策はいかにあるべきか―新「エネルギー基本計画」をめぐって―植田和弘
  • 生活保護の現場の今~制度改革がもたらすもの~ 衛藤 晃
  • 書評 城塚健之・尾林芳匡・森裕之・山口真美編著
    『これでいいのか自治体アウトソーシング』穂積匡史

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◇「月報」の記事

 〇平成26年度香川県当初予算を議論する(中) 田村彰紀

 〇瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論(⑭) 田村彰紀

 〇いいかげん地域学(その6・幻の大河を追う) 佐藤孝治

瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その9 閑話休題~

これまでの4回の連載では、瀬戸芸祭・春期の現代アートを歩いてきました。3月20日から4月21日までの33日間の鑑賞者(来場者数)は、26万3千人で、3年前に比べて1.3倍を記録したそうです。

もっとも、沙弥島のように春期のみの開催だったことも増加の一因でしょう。沙弥島ではおよそ7万7千人の来場があり、同時期の直島6万3千人を上回っています。

2013瀬戸内国際芸術祭春会期来場者数
四国新聞2013年4月23日Webサイト記事から

今回は、閑話休題として小村智宏・おむらともひろ氏(三井物産戦略研究所経済調査室長、2011年7月)の経済と芸術に関する見解を素材にしたいと思います。情報を収集していると、便利なインターネットで検索発見したものです。熟考しながら読み解いていこうと思います。

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瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その8 女木島~

 

8.女木島

 

(1)天に雲ひとつなく快晴だ。急いで「瀬戸芸祭ガイドブック」を開き、女木島行の船便を調べる。高松港~女木島~男木島を航行するフェリーは、便数が少ない。平日だが人気の女木島なので、混雑具合を見計らう必要があるためだ。大混雑であれば、小豆島の草壁方面に切り替える算段にしていた。

切符販売の窓口に聞くと、積み残しが出ることはないとの情報であったので、予定通り女木島を散策とした。それでもフェリー客室は大勢の人で、座席の空きはない。

目立つのは中高年のグループで、リュックを背負い、なかにはストックを用意しているものもいる。あとは子ども連れの家族で、これは春休みのピクニックといったところだ。

女木島は高松港から見える位置にある。船内放送によると、「めおん2」の全長やら定員などの解説の後、「15分間の船旅をお楽しみください」とのこと。よくできたもので、英語でも説明をしている。見渡すと数人の外国人も乗船していた。

(2)女木島は通称<鬼が島>と呼ばれている。瀬戸芸祭インフォーメーション「鬼の館」で、作品設置場所と散策ルートの地図を求めたが、「もうないんです」の返事だ。コピーすれば難ないことだが、あまりにも丁寧な応対のため「それは残念です」と了解しておいた。

もうすぐ鬼の洞窟行きのバスが出ますよと急かされて、洞窟見学の流れになった。見るからに、耐用年数はすでに過ぎた乗り合いバスに飛び乗る。洞窟山頂までおよそ10分だ。バスの幅いっぱいの、くねくね道を遠足気分になる。途中で気がついたが、沿道は桜が満開で山頂まで楽しむことができた。桜のトンネルを使用期限が過ぎたバスがゆく。瀬戸内の小さな島ならではの郷愁を味わった。

女木島鬼の洞窟行きのバスの中から
バスで鬼の洞窟に向かう

(3)何十年ぶりかの鬼の洞窟である。かつての記憶は全くないが、入り口から内部の洞窟、出口にいたるまで、鬼の「人形」が鎮座しているのには驚いた。もし「人形」がなければ、鍾乳洞のような奇岩珍岩がある訳でもなく、ただの「ほら穴」が右左にいくつも確認できるだけだ。

大正3年、高松市鬼無町の橋本仙太郎により発見されたそうだが、詳細な説明はどこにもない。ご承知の<桃太郎伝説>だけが鬼が島のよりどころだ。

作品040(カタツムリの軌跡)が洞窟のなかにあった。円筒形のスクリーンにアート映像が浮かんで動画となっているが、洞窟や鬼との関連性が感じられない。映像なので屋外ではだめなのであろう。見学している人が、「何が何だかわからない」と話し合っていた。

(4)女木港周辺に折り返して、港の突堤に作品031(カモメの駐車場)があった。これは島の港の風景と一体化しており、大いに評価したい。風の向きによってカモメが動いて、風見鶏となっている。漁をする人たちにも、風向と風力の確認ができるという利用価値があろう。

この現代アートは実にわかりやすく、老若男女を問わず、誰にでも親しめる要素を持っていると思う。まさにその場所における作品であり、他の場所では似合わない。

作品037(不在の存在)は、ベネッセ管理である。パスポートがなければ300円が必要。空き家を改装して中庭に、誰もいないのに足音と庭の土が動くという凝った仕掛けのアートだ。レストランにもなっている。これは女木の島でなくても場所を問わない作品である。

■4 月5 日(金)メモ■

  1. 女木島では平地が少なく、生活そのものがたいへんなところだ。石の壁を築き、段々畑をつくっている。廃屋があちこちにみられる。瀬戸芸祭が真に地域振興になればと思う。
  2. 年輩の地元人が、畑仕事をしたり、おしゃべりしている。来訪者には無関心なようだ。前回の芸術祭での喧騒に懲りているのかも知れない。再びの芸術祭の感想を聞いてみたいものだ。

(つづく)

田村彰紀/月報350号(2013年9月号)

瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その7 番外/岡山・瀬戸内市立美術館~

この試論も4回目(編注:元稿)を数える。瀬戸内の島々のうち、小豆島(土庄)、沙弥島(坂出)、宇野港(岡山)、高松空港・屋島、直島の芸術祭を巡ってきた。

今回は閑話休題も盛り込むことにした。現代アートのジャンルとして、今まさに主流となりつつあるインスタレーションの世界である。現代アート(芸術)は、従来の伝統的古典的芸術(絵画、彫刻、陶芸など)に対して反旗を翻しているようだが、一方で「混沌とする現代芸術」という表現も散見される。

瀬戸芸祭を機会に、現代アートの評価と地域に及ぼす環境変化に注目して試論としてみたい。

7.番外/岡山・瀬戸内市立美術館

 

(1)3月29日(金)に日本テレビの<未来シアター>で「塩の芸術家・山本基」を見た。

山本基は、『生まれ消えゆく一瞬のアート』をコンセプトにして、塩だけで繊細なアートをつくり上げる。世界ではただひとりのアーチストのようだ。岡山の瀬戸内市立美術館で、「山本基展 たゆたう庭ー塩のインスタレーションー」が開催されているとの情報を得たので車を走らせた。久しぶりの瀬戸大橋を走ったが、あいにくの雨で瀬戸内の景色は何も見えない。

瀬戸内市は、「2004年11月1日に牛窓町、邑久町、長船町が合併してできた、豊かな自然と歴史を活かした交流と創造の都市です」とホームページにある。

瀬戸大橋を渡って、早島ICから国道2号線に入り、岡山ブルーラインを走っていく。かなりの距離を走り、旧・牛窓町役場の3・4階が瀬戸内市立美術館だ(平成22年10月開館)。南には瀬戸内海が一望できる。

(2)「山本基展 たゆたう庭ー塩のインスタレーションー」の第一印象は、何がきっかけで塩アートを生みだしたのかである。説明によると、展示が終われば「塩」作品をつぶして、その塩材料を海に還してやるプロジェクトまでが彼の作品だそうだ。

ここでの作品は、塩60㎏を使用したという。制作期間は8日間、100時間をかけている。山本ひとりの孤独な作業らしい。接着剤も使わないため、作品完成すると若干の水分を吹きかけて作品を安定させるそうだ。作品自体はその現場で写真にしていなかったので紹介することはできない。

■4月2日(火)メモ■

  1. 展示が終われば、作品をつぶすことを前提にしている。もっとも、存続させるとなると維持管理がたいへんであるが。
  2. 現代アートのうち、多くがその場所に恒久設置される(することができる)かもしれないが、<無に帰す>ことの意味をどう考えるべきか。
  3. 芸術作品を時間的価値との関係で考えることができる。現代アートは時間を経ると古典アートあるいは伝統的芸術と位置付けられるか。また、屋内を前提とした芸術、屋外を想定したアートという場所的相違をどのように考えるか。これはアート作品の趣旨、目的に依るか。例えば絵画・彫刻・襖絵(屋内)、意匠建築・シンボルタワー(屋外)の場合はおおむね理解できそうである。
  4. 一般に、これまでの芸術作品は、美術館や博物館などに保管展示されることを前提にしてきた。しかし、庭園や公園などでオブジェ作品が常態として鑑賞できるようになった。さらに、山本基作品のように、一期一会のアートというジャンルが出現した。ついに混迷する芸術史の時代を迎えたのであろうか。

(つづく)

田村彰紀/月報350号(2013年9月号)