瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その12 アートプロジェクトと地域の関係/野田邦彦氏~

瀬戸芸祭は107万人の来島者で大いに瀬戸の島々が賑わいました。およそ8か月間の春~夏~秋の瀬戸内の風景に堪能した方々もいたのではないでしょうか。現代アートを鑑賞するよりも、過疎化が急激に振興する島々の実情と瀬戸の多島美に「非日常性」を感じ取ったのではと思いますが…。

さて、今回は野田邦弘(鳥取大)さんの文化経済学会2013での概要を素材にしてみます。次の第3回瀬戸芸祭を見通すうえでも参考になると考えます。


≪アートプロジェクトと地域の関係/野田邦彦氏≫

(1)まちづくりのツール

全国的にアートプロジェクトが増加している。アートプロジェクトとは、アートがアーティストを中心とした作り手だけのものであったが、「プロジェクト」という仕組みを導入して、さまざまな人と社会との関係がアートの世界に変化を見せている。

例えば、空き家、空き店舗などの未利用空間での現代アート作品展示やビエンナーレ・トリエンナーレといった2年・3年に1回開催される美術展覧会などである。国際的な美術展覧会では、舞台芸術、デザイン、音楽など多様な美術・芸術を対象にする他に、陶芸、版画などに特化したトリエンナーレもある。

しかしこれらのなかには、企画を外部に丸投げするとか、アーティストと地域の関係構築がうまくいかない事例もある。アートプロジェクトの歴史から、地域にとって望ましい条件とは何かを考察してみる。

(2)トリエンナーレ(伊:Triennale, 英:Triennial)

3年に一度開かれる国際美術展覧会のことである。「トリエンナーレ」の原意はイタリア語で「3年に一度」である。英語では「Triennial」(トライエニアル/トライアニアル)と呼ばれる。ビエンナーレ(2年に1回)同様、1990年代以降世界各地に国際美術展が増えている。またビエンナーレ同様、美術(ファインアート)に限らず舞台芸術、デザイン、音楽などさまざまな芸術分野のトリエンナーレがあるほか、陶芸や版画など、特定の美術分野に特化したトリエンナーレも存在する。

世界各地から美術家を集める招待展から、世界規模あるいは国内限定の公募展など形態もさまざまである。こうしたものは国際交流や町おこし、観光客の集客、多様な国の多様な芸術に住民が触れることを目的としている。ただし国際美術展では、世界の他のビエンナーレやトリエンナーレと出品する作家の顔ぶれやテーマが似たり寄ったりになっているという批判もある。

(3)野外彫刻展とパブリックアート

最初の銅像は、1893年(明治26年)東京の靖国神社・大村益次郎像とされる。その後、上野公園の西郷隆盛像(1898年)、渋谷駅の忠犬ハチ公像(1934年)、各小学校の二宮金次郎像などが身近なものといえよう。これらは国家による国民教化手段であった。戦後GHQは銅像追放の指令を発したほどである。

戦後、彫刻は若い男女の裸像や母子像など人物が特定されない像に変化した。自由、平和、愛、希望などをテーマにしている。1960年代になると、都市の環境整備や景観形成を目的に、郊外に彫刻などが設置されはじめた。嚆矢は、山口県宇部市の「宇部市野外彫刻展」(1961年~、2009年からUBE ビエンナーレ)である。こうして全国で野外彫刻展がブームとなった。人物以外の抽象的なオブジェも登場し、「どこへいっても同じ作家の作品がある」という批判も出てきた。野外彫刻は「パブリックアート」と呼称されるようになり、美術館からまちへ飛び出した。

(4)アーティストの個人的表現を重視

1929年アメリカでは、世界恐慌以降の経済停滞の打開策として、有名なTVA計画と同時に、アメリカニューディール芸術制作(1933年)がプログラムに登場した。特殊能力を有する芸術労働者を雇用し、不況打開の施策とした。これには共和党は文化への税金投入に反対を示した。

パブリックアートは芸術支援というより、都市開発に伴う「付加的」構造物と考えられる。しかし、都市空間とは無関係な作品があったり、不透明な作家選定が行われたり、メンテナンスを誰がどうするかという問題意識が不在であったりした。

ブランディング(顧客の視点から発想し、ブランドに対する共感や信頼など顧客にとっての価値を高めていく戦略のひとつ)創出には、ディレクターが必要である。北川フラム(瀬戸芸祭、大地の芸術祭、ファーレ立川)や南條史生(ゆめおおおか)などがいる。

ファーレ立川(ファーレたちかわ)は、1994年10月に住宅・都市整備公団(現:都市再生機構)によって施行されたJR 立川駅北口の米軍基地跡地(フィンカム交差点・ゲート付近)の再開発事業により完成したエリアである。事業の正式名称は「立川基地跡地関連地区第一種市街地再開発事業」で、開発面積は5.9haである。「ファーレ」とは、イタリア語の「創造する=fare」に立川の頭文字「t」を加えて「FARET」としたものである。北川フラムのディレクションによる総数109点のパブリック・アートが設置されており、「アートの街」としても知られている。一方で、「旧発動機講堂」などの遺構は取り壊された。

「ゆめおおおか」は、横浜市港南区の上大岡駅に直結した複合施設である。横浜市が主体となった「上大岡西口地区第一種市街地再開発事業」と、京浜急行電鉄が主体となった「上大岡駅前地区第一種市街地再開発事業」により建設され、1997年に完成した。商業棟、中央棟、業務棟の3棟で構成されており、横浜市住宅供給公社が管理に当たっている。横浜市が事業主体となっていることもあり、公共施設が多く入居している点も特徴の一つである。このパブリックアート・プロジェクトは上大岡駅前再開発計画の一環として、地域に潤いと特色を与えるために構想された。再開発計画によってできたビル「ゆめおおおか」は京浜急行線と鎌倉街道にそって延びる約300メートルの長さの複合的な建物だ。そしてこの「ゆめおおおか」ビルの内外19か所に18人のアーティストが作ったアート作品19点が設置された。

(5)ビエンナーレ・アートフェスティバル野外彫刻展やパブリックアートは、脱美術館化の表れである。

また音楽、演劇、ダンス、映像など美術関係は多種多様なものがある。やがて、アートフェスティバルへと展開を見せる。使われなくなったオフィスビル、旧工場・倉庫、廃校などのオルタナティブスペースがアーティストたちのアトリエとなった。近年では、インスタレーション(空間芸術)、アーティスト・イン・レジデンスなどが主流になっている。

(6)まちづくり

地域の過疎化や疲弊といった社会問題、あるいは福祉や教育問題など、さまざまな社会・文化的課題へのアートによるアプローチを目的としながら展開している文化事業、ないし文化活動をアートプロジェクトという。

そこで生活する人びとと地域との関係、歴史的建築物の新しい活用、地域に新たな創造・交流拠点を創出することなどを目的としている。コミュニケーションという交流の場にもなり、地域の固有価値を再発見、再評価することにも繋がる。理解困難な現代アートの活動を通して、新しい思考法を学び、新しい価値に気付き促進するものである。このプロセスから、地域に文化資本、社会関係資本の蓄積が生み出されてくる。

≪日本のアートプロジェクト≫

ここで少しばかり全国で取り組まれているアートプロジェクトを羅列的に紹介しておこう。興味と関心のある方はネット検索をしていただきたい。

  1. 瀬戸内国際芸術祭「アートと海を巡る百日間の冒険」2010(第1 回)、同第2 回「アートと島を巡る瀬戸内海の四季」2013
  2. 鹿児島県・甑島(こしきじま)を舞台に現代アートの作品制作や展覧会の開催をメインに、その他音楽祭なども開催しているプロジェクト
  3. 「東京アートポイント計画」は、東京の様々な人・まち・活動をアートで結ぶことによって新たな文化を創造・発信する
  4. 大阪・名村造船所跡/これまでの価値観や生活様式などについて、再考を余儀なくされている。タイトル「臨界の創造論」
  5. 「学校を美術館にしよう」宣言・長野市
  6. 四万十川音楽祭(毎年夏から秋)
  7. 京都市西京区/大枝アートプロジェクト(Oe Art Project=OAP)
  8. 小金井アートフル・アクション!
  9. 「広島アートプロジェクト2009」、⑩GOTEN GOTEN アート湯治祭など。

 

(つづく)

田村彰紀/月報353号(2013年12月号)