瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その11 かがわ・山なみ芸術祭~

(2)かがわ・山なみ芸術祭2013 綾川

高松空港の西、綾川町田万ダム周辺が現代アート作品の会場です。平日なので他の鑑賞者は見えません。案内ブースも常駐ではないらしく、展示場所は旧枌所小学校と田万ダム周回道に点在していました。

旧枌所小学校は、「かがわ・ものづくり学校 Presentation Transcript」となっています。その概要をネットから検索してみたところ、2005 年3 月に廃校となり、その有効活用を募集したところ、NPO 法人かがわ・ものづくり学校が香川県を拠点に芸術文化活動の促進と地域の創造的活性化を目的に、文化事業を展開することになったようです。

主たるメンバーは、画家、陶芸家、彫刻家、写真家、建築家、コンピューターエンジニアなどです。戦後、日本は地方に工場を作り、大量にモノを生産して大都市に流通させて経済発展を成し遂げてきました。こうした事実、地方での「ものづくり」を芸術家が果たしていこうというものです。

その旧枌所小学校の校舎内に現代アートが展示されていました。先日の塩江でもそうであったように、たまたま現代アートの制作と「展示」する場所が確保されたので作品をそこに並べたものという印象でした。

ただ、校舎3 階にあった縄文文様を基調にした絵画(染色技術)などは一見の価値があると評価したいと思いました。その他の作品は、「ものづくり学校」で学んでいる芸術学生たちの披露の場のようにも見えました。現代アートの神髄とでもいっていいのですが、芸術創造への独創性や創造力には並々ならぬものに感動を覚えたことも確かなことです。思いもつかないイマジネーションの源泉がどこにあるか、とことん作者に聞いてみたいと思ったほどです。

山なみ芸術祭・綾川エリアのテーマは、「心の在りか」です。田万ダム周回道にそって作品が展開されていました。次々と作品が現れますが、驚きと共感する作品には出会いませんでした。

現代アートとは何かを十分に咀嚼しないと評価を与えることに躊躇しなければならないのですが、いわゆる共感・感動するという第一印象は重要なことです。ただ、圧巻だった作品は、迫ってくる山の法面を活用した大掛かりな龍ペイントでした。力強さとともに、山頂から流れくる流水と昇り龍は特に印象的で、山なみ芸術そのものという印象を受けました。

(3)若干の考察です。

第1 に、大衆的芸術祭というジャンルがあるとすれば、地域住民とのワークショップを軸とする創造活動の披露としては素晴らしいことです。そこには専門的指導的な芸術者の存在は欠かせないでしょう。

第2 は、専門的リーダーの指導が加わっているとしても、たとえ未完成、未熟な作品だとしても、展示披露を重ねることにより、より高度な芸術に接近する可能性を評価しなければなりません。芸術文化の発展のためには、ここが重要なところです。

第3 に、なお未完成・未熟な作品に止まるとしても、創作活動への人間的衝動を積極的に評価したいと思います。芸術活動は、〇〇賞などを求めるとか、商品として市場流通に期待するとかは、卓越したプロフェッショナルの世界の話しでしょう。

最後に、瀬戸芸祭は、まさにプロ集団の芸術文化の披露の場です。大衆的芸術祭ではありません。ぜひとも、瀬戸芸祭を鑑賞する機会を作りましょう。現代アートは「分からない」のですが、何らかのインスピレーションがあるはずです。作品創造はできませんが、なぜ現代アートの世界に90 万人が訪れるのかを探究することが、地域政策として肝要なことになりつつあります。

(つづく)

田村彰紀/月報352号(2013年11月号)

瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その10 かがわ・山なみ芸術祭~

前号では「日記風瀬戸芸祭」ではなく、芸術文化と経済の関わりを少しばかり議論してきました。日本の経済発展をテーマにしたとき、芸術文化が俎上に乗るのは経済発展の飛躍といえます。そうした時代がすでに来ているという証左でもあります。

さて、今回は瀬戸芸祭に連動して香川の山間部では「山なみ芸術祭」が開催されていました。その様子を「日記風」に記しておこうと思います。山間部でも地域振興をめざして、芸術文化による地域政策が試みられています。

(1)かがわ・山なみ芸術祭「しおのえ@新たなる源泉」

梅雨入り宣言のなか快晴に恵まれた平日に、塩江・山なみ芸術祭の会場に向かいました。午後の遅い時間であったので、鑑賞者と思われる人に2~3人ばかりでした。まずは、塩江の岩部神社を参拝していると、境内に現代アートを発見しました。しかし、どう見ても現地の風景とミスマッチしているのではとの違和感はぬぐえません。神社の境内が適当に広いだけに、場所的適切さからだけのアート展示ではないかと思いました。

塩江温泉郷の温泉通りに設置されている総合案内所に向かいました。瀬戸芸祭パスポートを持参して提示している鑑賞者2人訪れていました。案内人が「ここは瀬戸芸祭とはちがいますよ」「ここにはスタンプはありません」と応対していました。そのやり取りを聞いていて、瀬戸芸祭への対抗意識が表れていると感じました。山なみ芸術祭のイラストマップを見ると、<過疎集落等自立再生緊急対策事業(温泉通り活性化)>とありました。

総務省は平成24年度補正で、この事業に補助金をつけているようです。その趣旨は、①過疎集落等を対象に、地域資源や地場産業を積極的に活用して地域経済の活性化を図るとともに、日用品の買物支援といった日常生活機能の確保などの課題に総合的に取り組む、②拠点施設整備等のハード事業や住民主体による持続可能な仕組みづくり等のソフト事業を一体的に実施する、③地域経済を支える中小企業・地元小規模事業者への受注を促し、地域経済を活性化する、とあります。

山なみ芸術祭は、瀬戸内の島々が開催地の瀬戸芸祭に対抗して、国の補助事業の過疎集落活性化企画に乗っかっての「芸術祭」でした。瀬戸芸祭の中間期日で会期外の6月1日(土)から6月23日(日)と短期間のはざ間の設定でした。

メイン会場の温泉通りには、現代アート作品と県内の伝統工芸作品のミックス展示で芸術文化が混在しているようで、何とも統一感がありませんでした。伝統工芸では、讃岐のり染め、手描き鯉のぼり、保多織、張子虎、欄間彫刻、竹一刀彫、志度桐下駄、高松張子、水引細工、一関張などです。ただ興味深かったのは、現代アートの作者が香川県出身者がほとんどだったことです。

塩江美術館は閉館していました。外庭には現代アートが展示されていましたが、これも場所的ミスマッチの感がぬぐえませんでした(現代アートへの共感は主観に拠るところが大きい)。つまり、作品に普遍性が感じられず、ついには撤去されることを前提にしたものであろうと思います。

(つづく)

田村彰紀/月報352号(2013年11月号)