瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その7 番外/岡山・瀬戸内市立美術館~

この試論も4回目(編注:元稿)を数える。瀬戸内の島々のうち、小豆島(土庄)、沙弥島(坂出)、宇野港(岡山)、高松空港・屋島、直島の芸術祭を巡ってきた。

今回は閑話休題も盛り込むことにした。現代アートのジャンルとして、今まさに主流となりつつあるインスタレーションの世界である。現代アート(芸術)は、従来の伝統的古典的芸術(絵画、彫刻、陶芸など)に対して反旗を翻しているようだが、一方で「混沌とする現代芸術」という表現も散見される。

瀬戸芸祭を機会に、現代アートの評価と地域に及ぼす環境変化に注目して試論としてみたい。

7.番外/岡山・瀬戸内市立美術館

 

(1)3月29日(金)に日本テレビの<未来シアター>で「塩の芸術家・山本基」を見た。

山本基は、『生まれ消えゆく一瞬のアート』をコンセプトにして、塩だけで繊細なアートをつくり上げる。世界ではただひとりのアーチストのようだ。岡山の瀬戸内市立美術館で、「山本基展 たゆたう庭ー塩のインスタレーションー」が開催されているとの情報を得たので車を走らせた。久しぶりの瀬戸大橋を走ったが、あいにくの雨で瀬戸内の景色は何も見えない。

瀬戸内市は、「2004年11月1日に牛窓町、邑久町、長船町が合併してできた、豊かな自然と歴史を活かした交流と創造の都市です」とホームページにある。

瀬戸大橋を渡って、早島ICから国道2号線に入り、岡山ブルーラインを走っていく。かなりの距離を走り、旧・牛窓町役場の3・4階が瀬戸内市立美術館だ(平成22年10月開館)。南には瀬戸内海が一望できる。

(2)「山本基展 たゆたう庭ー塩のインスタレーションー」の第一印象は、何がきっかけで塩アートを生みだしたのかである。説明によると、展示が終われば「塩」作品をつぶして、その塩材料を海に還してやるプロジェクトまでが彼の作品だそうだ。

ここでの作品は、塩60㎏を使用したという。制作期間は8日間、100時間をかけている。山本ひとりの孤独な作業らしい。接着剤も使わないため、作品完成すると若干の水分を吹きかけて作品を安定させるそうだ。作品自体はその現場で写真にしていなかったので紹介することはできない。

■4月2日(火)メモ■

  1. 展示が終われば、作品をつぶすことを前提にしている。もっとも、存続させるとなると維持管理がたいへんであるが。
  2. 現代アートのうち、多くがその場所に恒久設置される(することができる)かもしれないが、<無に帰す>ことの意味をどう考えるべきか。
  3. 芸術作品を時間的価値との関係で考えることができる。現代アートは時間を経ると古典アートあるいは伝統的芸術と位置付けられるか。また、屋内を前提とした芸術、屋外を想定したアートという場所的相違をどのように考えるか。これはアート作品の趣旨、目的に依るか。例えば絵画・彫刻・襖絵(屋内)、意匠建築・シンボルタワー(屋外)の場合はおおむね理解できそうである。
  4. 一般に、これまでの芸術作品は、美術館や博物館などに保管展示されることを前提にしてきた。しかし、庭園や公園などでオブジェ作品が常態として鑑賞できるようになった。さらに、山本基作品のように、一期一会のアートというジャンルが出現した。ついに混迷する芸術史の時代を迎えたのであろうか。

(つづく)

田村彰紀/月報350号(2013年9月号)