瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その16~

前回に引き続いて小豆島めぐりです。馬木エリアからよく揺れる島バスで、坂手港をめざしました。

(3)坂手港の岸壁に異様な姿の作品077「スター・アンガー」(ヤノベケンジ)は、その巨大さと輝く球体に龍が鎮座しているのには驚きました。この作品も、太陽を浴びてキラキラ輝く球体が何を意味しているのか、球体のあちらこちらから伸びた黒い棘(とげ)状の付加物は何を象徴しているのか分からずじまいです。制作者に聞いたとしても、「鑑賞者の趣くままに」の返答だけかもしれません。隣接する旧フェリー待合所の壁一面に、龍と棘のある球体などが描かれています。壁一面ですから、その迫力に驚嘆しました。墨絵タッチの単色で、さすがに絵画技術の高さを見せつけられましたが、その制作意図を一層知りたく思います。

作品078「ANGERfromtheBottom」(ビートたけし×ヤノベケンジ)は、話題の作品です。会期外であっても現地にはボランティア・スタッフが常駐しており、2時間おきに古井戸から化け物が顔を出します。地底から、どろどろという唸り音とも化け物の声ともつかない音響が出現の合図のようです。出現時間が近づくと、さすがに鑑賞者が増えて古井戸を取り囲みます。

ゆっくりとなぜか斧が刺さった銀色の頭が秋空に光ります。さらに焦(じ)らすような速度で、赤い眼と河童口が現れました。相変わらずどろどろという音響が響いて、黒いもので覆われた本体が見え、手も無い化け物が徐々に伸び上がるという演出です。どこまで伸び上がるのかというほど大きな化け物となり、鑑賞者たちから驚きの声が上がりました。

伸び上がったところで、河童口が開けられて数条の水が滴(したた)りはじめました。水量は多くもなく少なくもなく、強大な化け物にピッタリの分量ではないかと共感するほどです。これが何を意味するのか分からないまま、鑑賞者たちの口も開いていたようです。数十秒くらい水を滴らした後、ふたたび河童口を閉じて徐々に徐々に古井戸のなかに沈み込みます。どろどろの音響も低くなり、「ANGERfromtheBottom」パフォーマンスの終了です。この間およそ4~5分くらいでしょうか。この化け物の背後に見えるふたつの山を意識した場所設定のようです。

調べてみますと、洞雲山(361m)と碁石山(434.5m)は山岳霊場で、洞雲山が小豆島八十八か所第一番、碁石山が第二番の霊場だと知りました。作品ANGERfromtheBottom」はこのふたつの山から下りてきて、2時間おきに古井戸から世間を見渡すのでしょう。この化け物と霊場が関係するとしても、現代アートというよりは鑑賞者たちを脅かす昼間のイベントのひとつと思ったのだが如何でしょうか。

(4)小豆島で知り合った元気な若者からのメールを紹介しておきます(無断で・抄)。

香川県の旅とても楽しかったです!あと、昨日こえび隊のボランティアに参加しましたが、こえび隊の皆がボランティアに対してとても熱心で、瀬戸芸はボランティアサポーターによって支えられている部分の大きさなど感じました。私も参加できて良かったです~そして群馬に戻ったら中之条ビエンナーレのボランティアがまたさらに楽しみになりました(*^^*)。今日は直島から女木島、男木島へ行きました。ありがとうございます。あと2時間くらいで高松をでます。

誰にでも話しかけられるのも、芸術祭の魅力でしょう。

 

(つづく)

田村彰紀/月報357号(2014年4月号)

瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その15~

人気の小豆島芸術祭(2013年10月)を楽しみました。島バスに揺られて、草壁~馬木~坂手と、のんびりと乗降の人になりました。

(1)瀬戸芸祭を存分に楽しむには「会期外」に出かけることをお薦めした。現代アートは、多くの場合、屋外展示がなされているので、会期外ならば雑踏のなかで垣間見るということはありません。さらに、現代アート特有のその「場」とアートとの融合をしっかりと見定めることができます。体験上から、会期外に出かけることの利点を整理しておくと次のとおりです。

①混雑が避けられて、対象作品を前後左右から存分に観賞できること。②あわよくば制作者に出会えるかもしれないこと。③地元の人たちと会話から作品鑑賞の参考意見が聞けること。④会期外でも鑑賞者がいない訳ではなく、気軽に作品感想を交換できること。

(2)内海地区の馬木エリアです。高松港から内海フェリーに乗船して、短時間の船旅であっても異境の地に運んでくれるという感傷にかられます。

作品082「Umakicamp」では、地元の人たちが秋期開催の準備をしていました。「この近くにある作品はどこですか」と問うと、「この建物が作品です。基礎はコンクリートで耐震性を考えています。屋根は軽くするために垂木のテント張りです。ひとりの人が造ったんですよ」とのことでした。休憩スポットであり、地元の人たちとの交流拠点のようです。

この作品は、どう考えても現代アートと呼ぶには似つかわしくありませんでした。建築物が部分的に芸術性を帯びていることはあるかもしれません。物の本では、建築が工学系に属されている日本は珍しいそうです。「日本において建築とは、まず近代化のために西洋から学ぶべき技術として捉えられ、芸術・美術と捉える意識は薄くなった。また濃尾地震や関東大震災で煉瓦造建築に大きな被害が生じたことから、日本独自の耐震構造技術への関心が高まった。こうして、建築はもっぱら工学的な学問と考えられる風潮が強まった。この意識は今日まで続いている」とする解説もあります。

しかしながら、この作品のどこに芸術性(意匠性)があるのか判然としませんでした。ガイドブックには、「このエリアに暮らす人たちと、ここを訪れた人々をつなぐ仕組みをつくり出す」とあります。

作品083「小豆島町コミュニティアートプロジェクト」は素晴らしい芸術作品です。芸術の創作に地元人が350人も関わったことです。それも8万個の「たれ瓶(弁当用の小型容器)」に10種類の醤油を注ぎ、見事な醤油グラデーションに仕上げています。芸術とは、芸技(わざ)の技術と解釈されることがあります。

たれ瓶に醤油を流し込むだけではなく、褐色の醤油を10段階に徐々に薄めています。それを8万個、統一した色彩制作するのですから技能、芸の技というほかありません。ガイドブックには、「アーティストをしのぐ作品をつくろう」のスローガンで取り組んだようです。

馬木エリアは「しょうゆ蔵」が連担する伝統的な地区で、「醤(ひしお)の郷」と呼ばれています。醤(ひしお)とは、塩を加えて発酵させて製造した調味料または食品です。小豆島での醤油の歴史は、かの太閤秀吉が大坂城を建造する際、小豆島から築城のための石材を切りだした時に遡ります。その時、紀州湯浅(醤油発祥の地)から醤油の製法を学び、古くからの生業であった製塩とあわせ持って醤油業に発展したものです。

小豆島は瀬戸内海の要所というべき位置を占めており、京都・大阪という大消費地にも近く、地域産業としての醤油業が大いに発展しました。これは現在にも引き継がれて「醤(ひしお)の郷」として名を馳せているわけです。

作品084「おおきな曲面のある小屋」は、新たに設置されたトイレです。曲面は醤油樽をイメージしていると駐車場係りの人から教えられました。屋根はモザイク状にガラス瓦といぶし瓦で葺いており、粗末な小屋を表現しているそうです。説明パネルには、英文でHutwithArtWallとあり、「芸術的な塀のある掘っ立て小屋」とでも訳せそうです。しかし、現代アート風ではあるが、少しおしゃれにデザインされた建築物に止まりそうです。

 

(つづく)

田村彰紀/月報356号(2014年3月号)

瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その1 小豆島~

瀬戸内国際芸術祭2013・春会期が、3月20日から4月21日まで開催されました。

3年前の第1回瀬戸芸祭には、93万人が真夏の現代アートを楽しみましたが、たいへんな混雑だったようで、第2回瀬戸芸祭は春・夏・秋に分散しての開催となりました。

今回、春会期の瀬戸芸祭を覗いてきましたので、地域政策および文化政策の観点から「瀬戸芸祭日記」を開陳しておきましょう。 日記風ですので、お楽しみください。

 

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