瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その14~

(1)会期外であったので、男木島への来島者はわずか10人余でした(2013年9月)。京都・嵐山の桂川が氾濫し、渡月橋が沈下橋のような映像がテレビで流れていたときです。一方、台風一過の香川県は雲ひとつない秋空でした。穏やかな瀬戸内海をフェリー「めおん」が海を滑っていきます。途中、女木島に寄港して、さらに乗客が少なくなりました。

(2)男木島は、石積みと急坂迷路の島です。人口は179人(9月1日現在)、面積1.37平方km、インターネットでは「高松市の北7.5km、女木島の北1kmに浮かぶ島。平坦地が少なく、南西部の斜面に階段状に集落がつくられている。過疎化と高齢化が進行しており、空き家の増加が目立つが、昭和32年の映画『喜びも悲しみも幾歳月』の舞台にもなった美しい島。源平合戦で那須与一が射た扇が流れ着いたことから「おぎ(おおぎ)」という島名がつけられたともいう」と紹介されています。

(3)散策していると、地元の女性が噴霧器で水路を消毒しているのを見かけました。聞いてみると、「タネを消毒している」という。「タネ」とは、「谷」のことで、生活通路の排水溝のことのようです。田んぼがあれば、農道に沿う「用水路」でしょうが、男木島には水田がありません。「本土のほうでは井出(いで)と呼んでいるのを聞いたことがあります」とのことでした。男木島はコミ山(標高213m)ひとつにはり付いて集落が形成されているので、小さな排水溝でもいわゆる「谷すじ」なのでしょう。

(4)最初に目にしたのは、男木港のそばにある作品042「男木島の魂」です。屋根に日本語やアラビア語、中国語などのさまざまな言語文字を組み合わせた建築物で、屋根の文字が地面や水面に投影されると、時間が過ぎるにつれて変化しています。なかなか工夫された飽きない現代アートのひとつでしょう。
大井海水浴場近くの突堤に、作品054「歩く方舟」が不思議な景色を創っていました。旧約聖書のノアの方舟にヒントを得たとされていますが、古代の洪水から逃れる様子を造形したといいます。クラゲの笠に足が造形されて、屋島や五剣山の方向へ歩いているものです。何とも不思議な景色でした。

(5)映画「喜びも悲しみも幾歳月」のロケ地である男木島灯台まで30分歩きました。この灯台は、歴史的文化財的価値が高いAランク(灯塔は総御影石造り)の保存灯台で、日本の灯台50選にも選ばれているそうです。1895(明治28)年12月10日に石油灯で初点灯、1933(昭和8)年にガス灯化され、1961(昭和36)年には電化されました。1987(昭和62)年4月には無人化となりました。塔頂までの高さは12.4mで、海上保安庁第六管区海上保安本部の高松海上保安部が管轄しています。
芸術作品とか現代アートではないのですが、歴史的建造物・文化財としての価値ある男木島灯台になによりも感動を覚えました。

(6)会期外とあって、作品044「時の廊下」、作品052「漆の家」、作品051「記憶のボトル」、作品046「オンバ・ファクトリー」などは見ることができませんでした。男木島の作品で秀でていたのは、山頂に向かって重なり合う民家の甍と石積み、そして男木島灯台の雄姿であったと思います。

 

(つづく)

田村彰紀/月報355号(2014年2月号)