平成26 年度香川県当初予算を議論する(下)

(9)県政の課題

前号では、予算議会での代表質問から県政における諸課題が何であるかを見てきた。地域経済の活性化問題、四国新幹線の導入問題、豊島の産業廃棄物処理の現状などをはじめ、いじめ防止対策、医師確保の課題、高齢者施設の整備への取り組みなどが議論になっていた。

(10)知事選挙の公約

四国新聞8 月16 日付に「2014 知事選 私の公約」が掲載されている。知事選挙は現職と新人の一騎打ちの様相だが、ここのところ投票率の低下が懸念されている。これは明確な争点の有無、すなわち行政当局と議会からの県政の諸課題が県民に知らされていないことに起因する。

昨年(25 年度)の県政世論調査では、「元気の出る香川づくり(商工・サービス業の振興・働く場所の確保・農林水産業の振興)」満足度は「どちらともいえない」が過半数を超えている。「安心できる香川づくり(子育て・健康長寿・人権尊重・環境の保全など)」満足度でも、「どちらともいえない」が過半数を超えている。「夢と希望あふれる香川づくり(観光・教育・社会参画・芸術文化の振興など)」満足度についても、「どちらともいえない」が圧倒的な世論を形成している。「どちらともいえない」回答は、つまり、個々の施策についての詳細や実現度が体感として受け止められていないことを示している。あるいは、施策内容を知る方法が「知らされていない」のである。県政情報へのアクセスが閉ざされているか、行政からの発信が不足していると思われる。

(11)「公約」の検討

さて、先の四国新聞記事から現職知事の「公約」を検討してみよう。現在の「せとうち田園都市香川創造プラン」には、すでにみた「元気の出る~」「安心できる~」「夢と希望~」の3 本の柱が掲げられている。これの期間は平成27 年度までなので、今回の知事選挙後の現職知事の次期プランの柱と思われる原案が「公約」に見える。

第1 の柱が「成長する香川」であり、第2が「信頼・安心の香川」、第3 が「笑顔で暮らせる香川」となっている。「成長する香川」は、アベノミクスの呼応した経済優先のものといえる。希少糖やオリーブ、遠隔医療システムなどを「一大産業」に育てるとしている。また、攻めの農林水産業に転換して世界のマーケットを視野に入れるという。前者は、経済学でいう比較優位の考え方で、得意分野に特化して成長を図ろうとするものである。希少糖やオリーブなど香川県発の資源を産業化することは重要であるが、比較優位の立場に立てば、その他の埋もれている独自資源には目を向けないということになる。後者は、国際的な完全自由貿易への流れ(TPP など)に掉さすものである。県内の農林水産業の実情をリアルに把握し、堅実な地産地消の立場から発展施策を掲げるべきである。

第2 は「信頼・安心の香川」である。南海トラフ地震、渇水対策、台風災害などが当面の課題となる。これらに全力を傾注することは、東日本大震災・原発事故の現状が教えるところである。「安心」の面では、少子化対策、高齢者、障がい者などへの福祉の充実であるが、先の県政世論調査での「どちらともいえない」回答の過半数超の要因と、より具体的な県民の声をあつめる必要がある。

第3 は「笑顔で暮らせる香川」である。新聞記事では、農山漁村を元気づけるとか、クリーンで快適な古里、女性が輝く香川、という言葉が並んでいるが、それらの施策をイメージすることができない。瀬戸芸祭のたかまりから、アート県ブランドを確立するとしているが、瀬戸の島々の暮らしに笑顔が約束されるかどうか。

(12)26 年度の目玉予算

最後に、平成26 年度予算がどのように配分されているか若干の数字を見ておこう。①「元気の出る~」にはおよそ655 億円、②「安心できる~」には801 億円、③「夢と希望~」には134 億円である。①の重点とされているのは、国の農業政策の改革を踏まえた対応に21 億円余であり、香川型農業の姿は見えない。航空ネットワークの強化には3 億円余で、高松空港の利用促進が中心である。独自らしいものとして、全国年明けうどん大会の開催に約4 千万円だ。②の「安心できる~」への配分は801 億円である。主な事業はため池防災対策に20 億円だが、高齢者の生きがいづくりには1200 万円である。事業の性格からして比較はできないかも知れないが、高齢者福祉の充実の基準を知りたいものである。③の「夢と希望~」には134 億円である。このうち、道徳教育パワーアップ事業800 万円、トップアスリート育成に1 億円余、四国霊場開創1200 年記念事業に3 千万円などである。

ただし、①、②、③にあげた事業は県施策の目玉的なものなので、3 つの柱の総事業費のなかでもきわめて少額なものとなっている。それでは、どこに多額の経費が計上されているのかは予算書そのものか、県のホームページで詳細を根気よく追っていくほかない。だが、県民の多くが県政情報へのアクセスは困難であろう。

(13)おわりに

ここまで4 回の連載を記してきた。県民は予算配分に最大の関心をもつこと、行政は県民の声を反映させた予算配分であることを説明することが肝要である。

(T)

月報362号(2014年9月号)